変な奴2-20

あの時の自分の心境は、親父の癌での闘病も見ていたので、

癌と自分で分かった時は、自分なりに死を覚悟していた。

食欲も無くなり、血便も出ていた、後は死を待つだけかと

感じ取っていたのである。

それで倒れた時は、横行結腸が癌で塞がれ、便が出ないで

出血だけ、食べた物は口から吐き出す始末に成って居た。

結果的に割腹手術となったが、転移してなかった事を知らされた時は

自分の考えていた死が遠ざかった事に安堵した。

そんな事を思い出して「人間て、死を覚悟して助かると、命根性が

きたなくなるのか、生きたいと思う気持ちが強くなるよな。」と

自分の気持ちを素直に言った。

 

奴は「お前は病院嫌いで、大病を患った事もなかってし、

どちらかと言えば健康優良な人間だったから

病院に行かなかったのだろう」

 

「うん、それもあつたし、その頃は、癌は死を意味する

風潮があったからな、同時に父も妹も癌を患ったから

半分諦めもあったのかもしれないな」

 

「だけど、癌の後に、健康診断で胃に影があると言われて

お前は唐突もない事をやらかしたな、ママチャリで東京から

北上して三陸海岸を通り、青森から南下して日本海を通って

下関まで行ったよな。

他の人から見ると変人だよ、それもママチャリも9,800円で

スーパーで買って、家で使っていたやつだろう。

どう考えても無理があるよな、誰もやらないよ、そんな事」と

あきれた顔をして言って来た。

 

「そうだな、健康診断で胃に影があると言われた時に、

癌が転移したと思ったのだ。

それで、それなら何かやって見ようと思いついたのが、

ママチャリで日本を回ろうと思った。

ママチャリで回っている人は少ないだろう。

人がやってないから挑戦してみようと思ったのさ。」

 

奴は「お前は変わっている、前からそうだが、人が騒ぐ物には

興味を持たないよな、他人と違った物を持ちたがる傾向はあったが

ママチャリで日本を回ろうとは、馬鹿としか言いようがない。」

変人を見るような目つきで言うのである。

続けて「ママチャリじゃ、大変だろう、良く警察に止められなかった

どう考えても普通の人はやらないし、考えもしないだろう。

お前だから考えてのかもしれないが、峠やトンネルなども多いだろうに?」

 

「確かに峠は沢山あったな、1時間から2時間、自転車を押して登った

最初は辛かったが、慣れて来ると、ここを登れば下りだから楽できると

思う事にして頑張った、また、昔の人は歩いて旅をしたのだから

俺なんて自転車で楽しでいると、自分に言い聞かせながら走っていた。」

 

「本当の馬鹿だな、お前は。 それで東京から山口県まで

1都1府17県を回ったのだな、どのくらい日数で行ったのだ」

 

「45日かな、出発したのが8月の初めで終わったのが9月中旬、

本当は九州に行こうと思ったのだが、資金が続かなかったから

山口の下関で帰って来た。」

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