彼女との付き合いで、自分の気持ちは彼女を守りたいと思ってし
彼女の親を思う気持ちを大切にしたいとも思った。
だが、それも付き合って1年近くで、彼女の母親が亡くなった。
その時の私は自分の母親を亡くしているので、彼女の気持ちが
痛いほど分かった。
だが、その1年後に彼女は、この世を去って行ったのである。
脳腫瘍で頭痛から左半身不随、次には意識不明になって
最終的に手遅れ状態であった。
私はその時は彼女と同棲していたので、どんな状態でも良いから
生きていてほしいと思っていたし、2度まで愛する人を失う事は
経験したくなかったので、医者に哀願したが手遅れで
腫瘍も取れないで手術も終わってしまった。
彼女は両親が居なかったので病院代から葬儀代まで
私が借金をして支払った。
その時の私は彼女の後を追いたくなって、海にまで行ったが
借りたお金があるので、その返済をしなければならない責任感から
死を思いとどまった。
その時ほど自分の運命の悪さを感じた事はない。
愛する人を、この世から奪われる悲しみに耐える事は
その経験をした人しか分からないであろうと思うが
若くして、その様な経験を2度も自分の身に降りかかって来る事は
少ないであろう。
それからの私は、その悲しみから逃げるようにして仕事に没頭した。
人それぞれかもしれないが、悲しい事があれば、
そんな自分から逃げたいと思うのではないか?
私は逃げていたと思う。
その逃げ場所は仕事であった。
仕事に逃げた私は信頼されるようになり、出世も早かった。
だが、私たちの時代は家庭を持たない男は会社では
信頼されないし出世も出来なかったのである。
私は仕事をするなら出世もしたいと思い結婚もした。
結婚と言っても私の場合は相手から言い出して
結婚した部分が強かった。
結婚相手は私を信頼していたようだが、私の死んだ彼女の
友達でもあったし、結婚相手も付き合っていた男性とも
私は親しかった間柄で、相手が別れたので彼女方から
「結婚してくれ」と言われて結婚した。
その時の自分は亡くなった彼女を忘れられないから
嫌だと断ったのであるが、相手から強引に迫られて結婚した。
相手とは愛があって結婚したのではないし、
私は死んだ彼女の位牌も持っていたので、拒んだのである。
結婚した相手は私を理解していたのか、良く尽くしてくれたし
私の我儘も許してくれたが、私の心の中からは死んだ彼女の
面影は消える事が無かった。
そのために私は仕事人間に変わっていた。
同時に出世もしたいと言う願望があり、真面目さだけが
取り柄のつまらない男に成っていたと思う。
ここまでで、自分の生きて来た持ちが決定した部分があるが
最初に書いた父と同じような道を辿っているのである。
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