変な奴6

さて、女性の話は私のボロが出るので、話を変えたのである。

 

奴は『お前は歳いく毎に、話をずらす事がうまくなったな』と 薄笑いを浮かべながら言ってきた。 私は(こいつ、また俺を虐めようとしているな)と感じた。

 

彼は『お前は、変なところに、融通がきかない奴だよな、 特に仕事に関してはそうだな』 『そんな事はないよ、若い頃は、生真面目すぎる傾向は、 あったが最近は少しよくなったのでは』と弁解がましく答えると 『いいや、お前は、のめり込むタイプで、仕事だけを考えて居るよ』 『いいや、そんな事ないよ、周りも考えて行動しているよ』と 私は反論する。

 

『でも、俺の見る限りでは、仕事に熱中し過ぎて、 融通の利かない所があり、それによって厳しい面が 出ているように思える』と真顔で言うのである。

 

確かに私は仕事に対して厳しい面が、ある事は分かっていた。 ただ、それは自分にも厳しくしている為に、 妥協を許さないのである。

 

若い頃は特に、その面が強く、それは他人から見ると厳しいと 感じたであろうと思うが、若さ故他人の事を考える 余裕がなかったのである。

 

仮に今、その事を言っても、彼には弁解としか取られないであろう。 私は今までの反省から、これからは私の仕事上での良い部分を 若い人達に伝える事を考えているのであるが、

 

そんな事を説明すると、 彼は『人に教える事の難しさを知らないのだよ、君は』 私は『私は先生をやって、少しは分かったと思っているよ』 と答えると『甘いね、教えるという事は、相手の性格を把握して、 さらに適正な部分を見ながら教えていかないと、 その人の為にはならないのだよ、ただ、単純に教える なら、馬鹿でもチョンでも出来るよ』とホザキやがるのである。

 

『お前、そんな偉そうな事を言っているが、 自分はそれが出来るのか?』 『俺は出来ないから、理屈を言えるのだよ、出来る位なら お前に教えてやるよ』 と口の減らない屁理屈を言うのである。 段々彼とのバトルが激しくなって来た。

 

確かに人に教える事は難しい事である。

 

私も若い時に、会社を設立して失敗した事があるが この失敗は、人を育てる事が出来なかった部分が大いにあった。 人に教えるより、自分でやった方が早いし、教えるだけの暇が なかったとも言える。

 

それは会社を立ち上げたばかりの時は、経済的に余裕がなく また、新規開発等で時間が取られ、自分を酷使しても やり遂げなければ、会社が成り立たない状態であるから どうする事も出来ないのであった。

 

また、会社が安定すると、今度は設備を増やし、その資金の 然執する為に、新規開発の繰り返しを行っていくのと 業務が技術系で新しい分野であった為に、簡単に教える事が 出来なかった部分があったのである。(弁解になったな・・・)

 

また、技術者の欠点で他人を教える事の 下手さがある事も否めない。 私はその為に専門学校・短大等で教えて、教えるという事が、 どのような事なのかを経験した。

 

だが、その時に教える楽しさを経験したのである。 そんな内容を彼に言うと、彼は『お前は、確かに生徒には人気が あったが、それはお前と生徒の精神状態が同等だったからだよ』 そう言われると、確かに彼達とは授業以外では 友達付合いであった。

 

私は『それは先生と言っても、彼達とは歳の離れた 人間の先輩なのだと思っていたからな、だから、 私は先生だと思っていなかったし、彼たちが社会に 飛び出した時に使える技術を教えたいと思っていたのだよ』

 

彼は『お前の授業は厳しいと言っていたよ、課題が終わるまで 帰られないし、新聞奨学生は夕刊を配達してから、学校に来て 課題をやっていた子もいたな、それまでしなくても よかったのでは』

 

『確かに厳しかったよ、でも社会に出たら、それが 当たり前なのだし、その厳しさが巣立った時に役に立つと 思ったのだよ』と答えると

 

『でもな、専門学校の生徒だぜ、まだ遊びたい盛りに、 それはないのでは?』 『いいや、高い授業料を払っている親の事を思うのと、 技術の難しさから言えば、厳しくしなければと思ったのだよ、 だが、授業が終わったら俺とあいつらとは 同等になって騒いだりしたな』

 

『そうだな、あいつらと教室で野球をやったり、 将棋をやったりしていたな、それに、地方からの子達が 多かったので彼達の部屋を月1回回って歩き食事会と言って、 ドンチャン騒ぎをやり、ビールなんて飲んでいたのを 俺は知っているぜ、不良先公だったな』

 

『確かに俺は、餓鬼の頃から悪かったから、多少の悪さはしたな でも、社会人の先輩としての常識範囲だと思っていた』と答えると

 

『そこが違うのだよ、常識の範囲とは、他人から見て判断する事で あり、自分個人が判断すると、批判も出て来ることが多いのさ』 『確かに自分での判断は、周りとの協調性を欠く事はあるが 私も、それなりに社会で経験して来ているので、非常識な事は しなかったつもりだよ』と強い口調で言ったのである。

 

 

 

 

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