奴が「最近は調子がどうだ?」と上目使いで言う。
私は「普通だな、良い事もないし、これと言って悪い事もない
普通に暮らしているだけで、お金が無いのが悲しいけど」
と奴を軽視して言う。
奴は「お金は、お前は最初から無いのではないか、金儲けが出来ない
性格だからな」と言って来た。
私は確かに、お金に縁がない。
コンピュータが使われ出した頃からシステムをやっていたが、
当初は忙しくて、残業が月250時間という状態であり、
給料は高かった。
だが、その反動で、お金の使い方も派手になった。
家庭を持っていたので休みの時は家庭サービスで豪勢に遊んだ。
性格として貯めるという事が出来ない。
奴が「お前は、仕事は出来たが、お金に疎い性格だよな、
誰に似たんのだ」
「そうだな、母か父だろうな、どちらも金には縁のない人だったからな
母は良い処のお嬢さんだったし、父も網元に家に
生まれて派手な人だったから」私は、ため息をつきながら答えた。
奴は「お前は可哀そうな奴だよな、金に関しては稼げたくせに、
貯められなかった、それで今も貧乏暮らしか」とせせら笑いで言う。
それに対して私は何も言えないのである。
奴は「あ~あ、貧乏人とは付き合いたくないよな、でも、お前とは
切っても切れない縁だし、俺も付き合う奴を間違ったよ」と
ほざきやがるのである。
私は、この時とばかりに「俺も同じだよ、お前が貧乏神なのではないか」
強い口調で言うと、
奴は「待て、お前ね、自分の性格を俺のせいにするなよ
今までいくらでも、貯められただろう、それをしなかったのはお前だよ、
あれだけ稼いでいて使ってしまいやがった。
あれば、あるだけ使って計画性が無かったのだよ、お前は」
奴の言うとおりなのである、反論できなかった。
奴の行っている事は正しい、私は全盛期の頃は人の3倍近く稼いだ
今から34年前で月100万は稼いでいた。
その頃はコンピュータの絶頂期であり、大手がシステム開発に
躍起になっていたし、人材も少なかったので仕事が出来る奴には
どんどん仕事が回って来た。
私も全盛期で色んな会社から「入社しないか」と声が掛かっていたが
一匹狼で自分の好きなようにやっていたのである。
仕事にも自信があったし、油の乗っている時期で生意気盛りであった。
それを知っている彼には弁解できない自分が居た。
私は歩きながら“こいつ、また嫌味を言いに来たのか”と思いながら
奴と肩を並べながら歩いていた。
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