奴は「そうだよな。お前は仕事人間の融通が利かない男だからな」と
私を見透かした目で言って来た。
確かに奴の言う通り、私はどちらかと言えば仕事人間であろう。
それは前にも書いた彼女の死から、自分は逃げていた。
その逃げ道が仕事であったような気がする。
奴は「それでお前の計画案が始まったのか」
「うん、プロジェクトも作られて、俺の肩書もシステム副部長になり
始まったのだが、プロジェクトの中に上司の腹心の部下が
数人入れられたが、私は、これは想定していたので、
システムさえ開発できればと思っていた」
奴は「そうか、始まったのか、でも、やりづらく無かったか
腹心の部下が入っていて」
「想定していた事だから、計画案は私の頭の中にあるから、
詳細部分まで来たら、私をお払い箱にしようと思っているのは
分かっていたし、ただ、このシステムだけは完成させたかったから
受け入れた、同時に俺の名前が残れば良いなとは思っていたけどね」
奴は「それは無理だろう、大手なんて契約社員なんて切り捨てだよ」
「分かっているが、自分の計画したシステムが動けば満足じゃないか
システムは全国規模で使う事を想定していたので」
奴は「お前が、そう思うなら良いじゃないか」と、
あきれ顔をして言って来た。
私はプロジェクトが立ち上がった時に、上司の腹心の部下が2~3名いた
その時は腹心の部下を入れたのは、詳細設計が出来上がったら
私をプロジェクトから外すなと思っていたし、それまでは私から
計画案と詳細設計書を作らせるだけであろうと思っていた。
それでも、これほどの大きな仕事は、今までやっていなかったので
どうしても完成させたかったのである。
奴は「それで始まったのか」と問いかけて来た。
「うん、でも、またもやトラブルさ」と私は答えた。
「え~、またトラブルか? どんなトラブルだ?」
「その頃、俺は月額50万貰っていたんだ」
「え~、50万、20年以上前だよな」
「そうだよ、それが40万しか寄こさなかったんだ」
奴は「何でだよ、10万少ないじゃん」と怪訝そうな顔をして問う。
「俺も分からないから聞いたのだ、そうしたら、あきれた返事が
帰って来たのだ」
「何て返って来たのだ、それも10万は大きいな」
「うん、あの10万はペナルティ分だって言うのだ、
何のペナルティですかと、俺は聞いた、ペナルティを
受けるような事はしていなかったので」
奴は怪訝そうな顔をして「何のだよ」と聞き返して来た。
私は、またもや嫌な事を思いをしながら
「彼女の問題で、私が憤慨した事でと、ぬかしやがるんだ」
“俺は悪くないし、間違った事をしていないのにペナルティは
無いでしょう、それに、銀座で飲んで、その件は終わったのに、
これは問題ですと言って“俺は会社を出て来たんだ。」
「え~、また会社に行かなくなったのか」とあきれ顔で奴は言い
「その上司、彼女が好きだったのでないか?良く飲みに連れて
行って言ってたよな」
「そうかもしれないが、俺は悪くないと、思っていたから
会社に行かなかった」
「それで、システムの方はどうなった」
「俺が行かないし、まだ始まったばかりで概要も
出来あがって無い状態であったから、動いてないも同じ」
「それで、お前は会社に行かなかったのか」
「行く気がしないよ、あんなくだらない事を引きずる奴と
仕事がしたくなかった」
「じゃ、システムは終わりか」と奴は言いながら
「お前の意気込みも、そんなものなのだな」と
あきれ顔で言って来た。
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