変な奴2-17

奴は「お前は言葉も、ろくに話せないのに相手を理解できたか?」

「確かに、お前は言葉を覚えようとして、誰かれ構わず話しかけていたよな

それで覚えたが、文法的には問題があるだろう。

お前が話しかけたのは、靴磨きの子供や道端で屋台のおじさんなど

それで覚えたから敬語は無理だろう?」

 

「確かに日本で習って行ったが、ドミニカに着いたら早口で分からない。

日本で教える時は単語ごとに、ゆっくり言ってくれるので理解できたが

あちらでは単語と単語の間の接続語も、続けて言うのと

早口なので理解出来なかった。

それで相手の話している事に慣れるために、片言のスペイン語の単語で

話しかけたのだ。

話す事より聞く事に慣れないと生活できないと思ったからね」

 

「そうだよな、2年間も生活するのだから、言葉が分からなければ

大変だよな。

それで、お前は自分なりに考えたのだな。

でも、それで騙されて損をしたではないか。」

 

「確かに損をした部分が大きかった、だが逆に4年間も付き合える人を

得た事も出来た。

最初は1週間くらいで、その良き友達を得たし、それ以外では

騙された部分が多かったな」と思い出しながら、奴に言った。

 

「そうだろう、お前は最初の頃は、日本の生活感覚で居たから

外国に来た感覚が薄かったのだよ。

お前は“新たな知らない土地でやる”などと、偉そうな事を言っていたが、

基本的に日本の風土で育った事は抜けきらないのだ。

それを、そのまま引きずっている、自分が居る事を忘れていたと思うよ。

ただ、無鉄砲に行動して居たに過ぎないのさ、お前は」

と説教を始めた。

 

私は確かに40数年以上日本で生活して、海外と言えば旅行くらいで

そこに住みついていたわけではないので、日本の習慣が抜けきれなかった。

その為に、あちらでは騙されて、いくら損したか分からない。

私は2年契約であったから、2年たったら帰りたいと思っていた。

こんな国で生活は出来ないとも、最初の頃は思っていたが

最初に知り合った良き友の家族に、大いに助けられて

持ちこたえていた部分が多かった。

「でも、俺は仕事だけは終わらせたいと思っていたから、我慢したな」

と答えると

 

奴は「お前、違うな、お前は最初に良き友を見つけたから

仕事が出来たと思うよ、そうでなければ任期途中で帰国していたかも

知れないと俺は思っていた。」

 

「そうかもしれない、最初に騙された時は派遣先の別な部署の

知り合いからだったからな、“アミーゴ”という言葉に騙されたのかも

日本語に訳すと、誰もが“友達”であると感じるのだが

それが曲者なのだよな、俺は日本的感覚で友達と思っていた

それが違っていたし、そこで大損をしたな」

 

「例の自動車事件か」と奴が言って来た。

『海外珍滞在記』に書いてある事件である。

 

「そうだ、だが、あちらの国では個人的問題に関係部署の連中や

上司は関わらない。

日本だと注意などするが、注意もしないし、俺と、そいつの間で

起きた事なので、自分たちで解決するのが当たり前、

他の同僚も知らん振りが当たり前、相談にも乗ってくれなかったな」

 

「ま~、最初だからしょうがないにしろ、お前は日本的感覚で

生活していたのだよ、お前の周りはドミニカ人ばかりだろう。

そんな中で仕事をするという事は、その環境に慣れないと

出来ないだろうに、それでも2年契約が、4年に成ったのは、おかしいな!

そんなに騙されたりして、良く4年も居たな」と

怪訝そうな顔をして問いかけて来た。

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